著 天祢涼 希望が死んだ夜に 貧困、そして希望とは…
こんにちは、じっくすです。
今日は1冊小説を読み終えたので紹介します。
今回紹介するのはこちら
希望が死んだ夜に 天祢涼 著
この小説はミステリー小説ですが、ただ人が死んだり犯人を見つけたりするような内容ではありません。
テーマは「子供の貧困」です。
神奈川県警刑事部捜査一課の真壁は、中学2年生の春日井のぞみが殺害された事件に召集された。
その被疑者は冬野ネガという中学2年生の女の子。
ネガは自分がのぞみを殺したと供述するも、動機は不明。
春日井のぞみは美少女で優等生、吹奏楽部でフルートを演奏する誰もが憧れるような女の子。一方ネガは貧困に苦しみ、お風呂も毎日入れなければご飯も十分に食べられない家庭に育つ。
一見するとのぞみへの恨みからの殺害に思われるが、ネガが頑なに言わないその動機とは何なのか。
貧困の根深さについて考えさせられるミステリー小説。
ではここからこの小説のポイントを、「想像」「貧困」「希望」の3つでお話しします。
1つ目は想像です。
刑事の真壁はある人物と協力し捜査を進めます。それが生活安全課の仲田です。
仲田は周りから奇妙だと言われ少し距離を置かれています。それは仲田が奇妙な操作の仕方をするから。普通の捜査では物的証拠を元に論理的に捜査を進めていきます。ところが仲田はあくまで被害者や被疑者の気持ち、状況を「想像」しながら捜査を進めるのです。
この小説においてはこの想像がかなりキーになってきます。
例えばネガはわざわざクラスの一番前の席を選んだにも関わらず、授業中はほとんど寝ていて成績もよくありません。この状況だけ見ればネガのことを変な人、不真面目なやつだと思うでしょう。実際ネガの担任はそんな彼女のことを少し嫌な目で見ているようで、ネガが貧困に困っていると相談してもほとんど相手にしませんでした。
では仲田はどうしたか。実際にネガが座っていた座席に座って想像するのです。どんな気持ちで授業を受けていたのかと。
私たちは自分の身に起こっていないことを普段想像しようとしません。想像しようとしてもできません。その人の置かれている状況にならない限り、その人の気持ちはわからないからです。でも。だからと言って想像しなくていいのかというとそれは違います。何かに対して意見を言うとき、その状況に置かれている人の気持ちを無視した意見や発言はその問題の解決に何の進展ももたらさないからです。
この小説では生活保護を批判する人の発言が何度も出てきますが、これも想像力の無さがもたらしているものです。
完璧にその人の立場や心情を理解することはできないですが、仲田のように少しでも理解しようと取り組む姿勢は見習わなきゃなと思わされました。
2つ目に貧困。
あまり小説の内容に触れすぎると物語の核心に迫ってしまうので自分の経験を交えた話をします。
私は恐らく日本全国でもかなり恵まれた家庭で育ちました。
高校は私立だったのでお金に余裕のある家庭の人ばかりでしたが、小・中では確実に周りに貧困家庭で育っている人がいたはずです。でも私は知りませんでした。みんな自分と同じような生活水準で生活しているものとばかり思っていました。習い事はみんなするものだと思っていたし、塾も皆行くものだと思っていたし、クリスマスプレゼントには欲しいものがなんでも手に入ると思っていたのです。
その認識が間違っているとわかったのは、大学で見つけたあるNPOに出会った時です。
そのNPOは貧困層の子供に学習に機会を提供するという団体。それを聞いて私は、「確かに塾は高いから行かない人もいるのは知っているけど、学校の教育と自習でいい大学に入っている人は沢山いるじゃないか。」と思ったのです。非常に甘い認識で、世間知らずでした。貧困層の子供は家庭では働く親の代わりに家事をこなすので忙しく、また下に弟や妹がいる場合はその相手をしなければなりません。遊ぶ暇も、勉強する暇も、酷いと寝る暇もありません。
話を小説に戻します。上で述べたように、ネガは授業中寝ることが多いです。それはただの怠慢なのでしょうか。本当は他に事情があるのではないでしょうか。この本では貧困層の子供の生活がリアルに描かれていて、私たちの貧困層への「想像」を手助けしてくれるように思えます。
3つ目は希望。
この小説の題名にもある「希望」は、いろんな意味を持っているなと感じました。
ネガの名前の由来は「希う(ねがう)」から取ったものであり、のぞみは望むから来たものと想像できます。また、のぞみはフルートが大好きで、世界的なフルーティストになるという希望がありました。ネガは高校に行きたいという希望がありました。そしてネガにとって正反対の世界で生きているように思えるのぞみは、お姫様のような存在、生きる希望でもありました。
ただ、忘れてはならないのは、希望の持つ二面性です。希望は生きる力を与えてくれます。その希望が大きければ大きいほど、人はどんなに辛い環境でも頑張ろうと思えます。だとしたら、その希望が消えてしまったらどうなるのでしょうか。
大人は子供より選択肢が豊富ですから、1つの希望を失ってもまた新たな希望を生み出すことは容易です。子供はどうでしょう。子供が見えている世界はあまりに小さく、その中で見出した希望の存在はあまりに大きい。私たち大人は子供に対して、世の中はこんなにも多くの希望で溢れているということを教えてあげる必要があると思います。
そうすればこの小説の最後のような結末にはならなかったのですから。
ここまでかなり長く話してきてしまいましたが、この小説は本当に多くのことを考えさせてくれます。社会問題について知りたいけどちょっと内容が重くて調べたりする気にならないというような人には是非お勧めです。
皆さん手に取って読んでみてください。リンクを張っておきます。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
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